SC 7 専門委員会(ソフトウェア及びシステム技術)

第1 種専門委員会

SC 7(ソフトウェア及びシステム技術/Software and systems engineering)

<2022年度委員会活動報告>

 委員長 谷津 行穗

1. スコープ

SC 7は,ソフトウェア製品及びシステムに関連したプロセス,支援ツール及び支援技術の標準化に取り組んでいる.基本的に,プロセスモデル及び手法や技術に関するベストプラクティスも含み焦点を当てている.

2. 参加国

a) 2017年11月より,幹事国はインド,議長はインドが引き受ける.

b) Pメンバー国(37)
Argentina, Australia, Belgium, Brazil, Canada, China, Czech Republic, Denmark, Finland, France, Germany, India, Iran, Islamic Republic of, Ireland, Italy, Japan, Kazakhstan, Korea, Republic of, Luxembourg, Malaysia, Netherlands, New Zealand, Panama, Peru, Poland, Portugal, Romania, Russian Federation, Slovakia, South Africa, Spain, Sweden, Switzerland, Thailand, Ukraine, United Kingdom, United States.

c) Oメンバー国(24)
Austria,Costa Ricaなど24ヵ国

d) 日本の国際役職者
SC 7/WG 6 Convenor 込山 俊博(日本電気)
SC 7/WG 20 Convenor 鷲崎 弘宜(早稲田大学)
SC 7/WG 4 国際幹事 種田 圭吾(富士通)
SC 7/WG 6 国際幹事 坂本 健一(NTTデータ)
SC 7/WG 26 国際副幹事 増田 聡(東京都市大学)
SC 7/JWG 28 Co-Convenor 福住伸一 (理化学研究所)
IEC/TC 56 リエゾン 木下 佳樹(神奈川大学)
SC 42 リエゾン 木下 修司(東京都立産業技術大学院大学)

3. 活動内容

SC7専門委員会には,2022年度末の段階で,下記のように国際WGに対応した16のWGが存在する。さらに,2022年6月の バーチャル総会時点で,SC 7共通課題を担当する5 AG(Advisory Groups)及び1年特化型テーマを担当する2AHG(Ad Hoc Groups)が存在しており,これらもすべてSC 7専門委員会で対応している.国内ではのべ175名の委員が活動しており,日本からの国際Project Leader/Co-Project Leaderとしての参加は2022年度にはのべ35名である.以下,テーマの関連が深いWGごとに説明する.

WG:
WG 2(システム,ソフトウェア及びITサービスの文書化)
WG 4(ツールと環境)
WG 6(ソフトウェア製品及びシステムの品質)
WG 7(ライフサイクル管理)
WG 10(プロセスアセスメント)
WG 19(ITシステムの仕様化技術)
WG 20(ソフトウェア及びシステム知識体系とプロフェッショナル形成):
WG 21(情報技術資産管理)
WG 22(基本用語及び語彙)
WG 24(小規模組織のソフトウェアライフサイクル)
WG 26(ソフトウェアテスト)
JWG 28 (使用性のための産業共通様式)
WG 29 (アジャイル及びDevOps)
WG 30 (システムレジリエンス)
WG 42(アーキテクチャ)
JWG 2(AIシステムのテスト)

AG:
AG 1(Chair‘s Advisory Group)
AG 2(Business Planning Group)
AG 3(Communications and outreach)
AG 4(Standard Management)
AG 5(Architecture and Future watch)

AHG:
AHG 6 (Digital Engineering)
AHG 7 (Open Source Software)

a) ライフサイクル管理及びプロセス評価

WG7 では,ISO/IEC/IEEE 15288 “システムライフサイクルプロセス”及び ISO/IEC/IEEE 12207 “ソフトウェアライフサイクルプロセス”を基盤規格として提供している.両規格は多くの組織で開発標準プロセス基本形として参照され,受発注や共同開発時の作業範囲・内容の確認合意に利用されている.今年度は,この 15288 の改訂を進めた.プロセス群の構成は維持しつつ,プロセスの目的,成果,アクティビティ,タスクを一部見直すと共に,システム オブ システムズ (SoS)への適用時の補足などを追加し,DIS 審議から FDIS を経て発行準備へ至った.また,日本提案の ISO/IEC/IEEE 15026-2 “アシュアランスケース”が発行に至り(PE 木下佳樹委員,神奈川大,CoE 木下修司委員,都立産業技術大),15026-3 “インテグリティレベル”の改訂は DIS 審議を経て FDIS 準備まで進めた.さらに,ISO/IEC/IEEE 24748-6 “インテグレーションプロセスの手引”及び 24748-9 “感染症対策システム向け15288 適用”は,DIS 及び FDIS を審議した.15288 改訂に伴って改訂中のISO/IEC/IEEE 24748-1“ライフサイクルプロセス適用の手引”及び 24748-2 “システムライフサイクルプロセスの手引”は DISまで進めた.

WG2では,ライフサイクル及びサービスにおける情報作成・管理に関連する規格を作成しており,2022年度は ISO/IEC/IEEE 26513 改訂版を出版し,ISO/IEC/IEEE 23026及び ISO/IEC/IEEE 26531の改訂版を作成し,FDIS 投票に進めた.

WG24では,ISO規約変更でTRとして出版できなくなった小規模組織(VSE)ソフトウェア(29110-5-1-x)およびシステム開発(29110-5-6-x)の手引き類を,順次 IS に転換する作業を継続している.また,TR として作成中であった VSE 向け Agile(29110-5-4)/DevOps(29110-5-5)手引きについても,同様に IS へ転換することとなった.並行して,概要(29110-1-1),用語(29110-1-2),プロファイル規定(29110-4-1,29110-4-6)の改訂作業を進めている.さらに,日本原案で開発していた宇宙開発に関わる VSE 向け規格(29110-7-1)については,NP 投票が可決され CD 段階へ進めた.

WG 10 では,プロセスアセスメントの方法を規定する ISO/IEC 33K シリーズの制定を進めている .33K シリーズは,ISO/IEC 15504 シリーズのリニューアル版であり,ソフトウェア及びシステムのプロセス参照モデル及びプロセスアセスメントモデルとして用いられ,国内外のプロセスアセスメント,特に自動車業界にて用いられている.2022 年度は,ISO/IEC TS 33010(プロセスアセスメント実施のガイダンス)を発行した.また 2021 年度から継続して ISO/IEC 33020(プロセス能力のアセスメントのためのプロセス測定フレームワーク)の改定,及び ISO/IEC TS 33021(33020のプロセス能力水準測定のための共通情報品目記述),ISO/IEC TS 33064(安全プロセスのためのプロセスアセスメントモデル)の策定を実施している.さらに ISO/IEC TS 33060(システムライフサイクルプロセスのためのプロセスアセスメントモデル)の改定,及 び ISO/IEC TS 33022(33020のプロセス能力測定尺度に対するソフトウェアライフサイクルプロセス(12207)の適用),ISO/IEC TS 33023(33020のプロセス能力測定尺度に対する品質管理プロセス(33073)の適用),ISO/IEC TS33062(33020における高水準プロセス能力を支援する定量的プロセスのためのプロセスアセスメントモデル)の策定を進めた.

WG29はアジャイル及び DevOpsに関する標準化を実施するWGで,2020 年度後半より活動を開始している.2022 年度は前年度から継続して,アジャイルの中心的なプラクティスをソフトウェアライフサイクルプロセス(ISO/IEC/IEEE 12207)の各アクティビティやタスクと関連づけて定める規格ISO/IEC 33202 Core Agile Practicesの開発に取り組み,2022年2月に実施したCD投票のコメント処理を中心に進めた.今後も他のWGと協調しながら,この分野の用語や手法の比較整理などを進めていく予定である.

b) ソフトウェア及びシステムの品質,ソフトウェアテスト及び知識体系と技術者認証

WG 6では,ソフトウェア及びシステムの品質要求と評価という分野において, SQuaRE シリーズを関連国際規格として整備してきた.日本がConvenor及び Secretaryを担当し,シリーズ全体の Project leader(以降 PL)を東基衞(早稲田大)が務めて,日本のリーダシップの下で標準化が進められている.現在は,日本がPLを務める ISO/IEC 25010(製品品質モデル,PL:込山俊博),ISO/IEC 25019(利用時品質モデル,PL:福住伸一), ISO/IEC 25040(品質評価の枠組み,PL:中島毅),その他にISO/IEC 25002(品質モデルの概要及び利用法)の制定/改訂を進めている.また,ISO/IEC 25052-1(クラウドサービス品質モデル)はTS発行され,ISO/IEC 25052-2(クラウドサービス品質測定量),ISO/IEC 25023(製品品質測定)改訂及び品質エンジニアリング部門の新規提案に向けた準備を進めている.SQuaRE シリーズ以外では,ISO/IEC/IEEE 32430(ソフトウェア非機能規模測定)改訂の新規提案が承認された

JWG28はJTC1 SC7とTC 159SC4(人間工学/人とシステムとのインタラクション)との共同 WG であり,前者は日本が,後者はドイツが Co-Convenor を務め,ユーザビリティ向上のための産業共通様式 (Common Industry Format:CIF)の作成を行っている.現在,ISO/IEC 25060:全体フレームワーク,ISO/IEC 25062:ユーザビリティ試験報告書,ISO/IEC 25063:利用状況の記述書,ISO/IEC 25064:ユーザニーズ報告書,ISO 25065:ユーザ要求事項仕様書,ISO/IEC 25066:評価報告書,が発行されている .
2022 年度は全体フレームワーク 25060 を発行し,また,内容の重複による読者の混乱をさけるために,25062 と 25066 の統合を決め,原案作成を開始した.さらにこれまで未着手であったユーザシステムインタラクション仕様書とユーザインタフェース仕様書について,昨年度1つの仕様書に統合することとし 25067 として審議を開始した.

WG 26では,ソフトウェアテスティングに関する規格およびワークプロダクトレビューに関する規格(ISO/IEC 20246)を制定している.ISO/IEC/IEEE 29119 シリーズはソフトウェアテスティングの用語や概念(Part1),プロセス(Part2),ドキュメント(Part3),技法(Part 4)といった基盤技術に加え,キーワード駆動テスト(Part 5),アジャイル開発におけるテスト(Part6), AIを用いたシステムのテスト(Part11), バイオメトリクスシステムのテスト(Part13)のような応用技術に関する規格を発行している.さらにパフォーマンステスト, 車載システム向けのテスト, 大規模システム向けのテスト,デジタルゲームのテスト, データマイグレーションのテストなどに関する規格制定の議論が進んでいる.

WG 20 では,日本が Convenor を務め,ソフトウェア工学知識体系(SWEBOK)等の整備と,技術者の認証・認定フレームワークの整備を進めている.後者では, ISO/IEC 24773:2008 の次世代版として全 4 部構成の改訂版の制定を進めている.日本がコエディタを務めた第 1 部 ISO/IEC 24773-1:2019(ソフトウェア及びシステム技術者認証 - 一般要求事項)および第 3 部 ISO/IEC 24773-3:2021(ソフトウェア及びシステム技術者認証 – システム技術)を発行済みである.さらに個別要求やガイドを与える他の部についても日本がコエディタを務めて 2022 年度に制定を進めた.これらはISO/CASCO の認証フレームワークに従って技術者の認証・認定を行うものであり,情報処理学会において 2014 年から本番運用されている認定情報技術者制度(CITP)は,ISO/IEC 24773:2008 に準拠するように制度設計されている.

c) 情報技術資産管理

WG 21は,IT資産管理システム(ITAMS)のための標準を開発するWGである.時代に適合した要求事項やIT資産の情報構造をISO/IEC 19770シリーズとして規格化するとともに管理を高度化するための啓蒙活動を行っている.今年度の活動として要求事項関連では,「IT資産管理システムの導入のためのガイダンス」(ISO/IEC TS 19770-10)のWDがWG 21内のSWGで作成され,NP提案が承認された。IT資産管理のための情報構造の規格に関しては,「ソフトウェア識別タグ」(ISO/IEC 19770-2第3版)がJASON対応の事例を残すのみとなり,「ハードウェア識別タグ」(ISO/IEC 19770-6)はFDISの段階まで進んだ。「権利スキーマ」(ISO/IEC 19770-3),「資源利用測定」(ISO/IEC 19770-4)については今のところ具体的な変更要求が来ていないが,各規格間の連携のガイダンス的な「タグオーケストレーション」(ISO/IEC 19770-7)が難航しており、WG21内で議論が行われている.

d) ツールと環境,及び仕様化技術

WG4 は,日本が Project Editor を努めて制定した ISO/IEC 20741(ソフトウェアツールの評価と選定)をアンブレラ規格として“ツールの機能要件”をシリーズとして規格制定を進めている.今年度は日本が Project Editor を務める ISO/IEC 20582(構築及び配布ツールの機能)をスタートさせ,現在 CD を開発中である.なお,この規格では日本からさらに 2 名のコエディタが参画している.
また,ISO/IEC 26550 シリーズとしてソフトウェアプロダクトラインエンジニアリングに関するツールと環境の規格を多数発行してきており, ISO/IEC 26563(プロダクトラインの構成管理),及び,ISO/IEC 26564(プロダクトラインに関する測定)を発行した.
さらに,上記二分野とは異なる新たなカテゴリの規格として ISO/IEC/IEEE 24641(モデルベースのシステム及びソフトウェア技術のための手法及びツール) を発行した.この規格では日本から 3 名のコエディタが参画している.

WG19では,ペトリネットなどのシステムの仕様や動作の記述法の規格化を実施してきた.現在は,モデル主導アーキテクチャなどの次の規格案の検討を進めている.

e) アーキテクチャ

WG 42 では,ISO/IEC 42010(Architecture Description)の開発作業を行った.ISO/IEC 42010はアーキテクチャ記述の概念及びその構成要素を規定するものである.これは,ISO/IEC 10746 RM-ODP, OMG/Unified Architecture Framework, NATO Architecture Framework等を包括するように規定したArchitecture Frameworkである.FDIS を完了し 5 月に投票を行い承認された.
さらに,JTC1/AG8 が提出してきたmeta Reference Architecture(以下mRA)レビューを行った.mRAは DoDAF/MODAF, OMG/UAF(Unified Architecture Framework), 当WGのISO/IEC42010のArchitectureを包含する概念に基づくReference Architectureを規定するものである.日本としては各種の問題が散見されたため反対とし,WG42 レベルでも反対を表明した.

f) SC7の基本用語及び語彙

WG22 は,Change Package(新たに発行/改定/廃版となった SC7 の IS/TR/TS などに記載されている用語及び定義を記した文書)を基に,IEEE-CS と共同で運営している“システム及びソフトウェアエンジニアリングの語彙集”のオンライン版(www.computer.org/sevocab)の更新を行っている.2022年度は,Change Package第11版のレビューを行い,語彙集の品質維持に寄与した.

g) システムレジリエンス

 WG30 のシステムレジリエンスは2022年9月にスタートし,直ちに,既に作られていた CD のレビューが行われた.日本からは CD に対して42件のコメントを提出した.その後に日本の小委員会が作られ,3人が Experts として11月の国際会議から参加している.グローバル全体では183件と多くのコメントが提出されて,プロジェクトスコープやレジリエンスの定義と基本要素,システムライフサイクルプロセス(ISO/IEC/IEEE 15288)や品質管理(25000  SQuaREシリーズ)の標準との関係など,本質的な課題の議論を行なっており,コメントの処理が続けられている.2022年度末時点では意見にかなりの相違があるが,日本としては,他の参加者と協力して,これらの課題をわかりやすく,かつ現実的な形でコンセンサスを作ることに努力して,有用な国際標準の作成を目指している.

4. 日本対応/方針

a) 日本が強みを持つ関連分野での協業の促進

  • これまでSC7が規格整備を進めてきた分野と,新規技術や新規適用分野での協業がさらに加速しており,これまで日本が大いに貢献してきたISO/IEC/IEEE 15288,ISO/IEC/IEEE 12207等のライフサイクル管理や,ISO/IEC/IEEE 29119シリーズのソフトウェアテスト,またSQuaREシリーズなどの主要規格においては,新規技術の発展に伴い,AI分野(SC42),Cloud computing(SC38),バイオメトリクス(SC37)でのプロセス,品質,テストなどの協業の促進へも大きく貢献している.


b) SC7価値の周知

  • 国際でのSC7活動周知を目的に,WG6中島実行委員長によりIWESQ2022として国際ワークショップを開催し,SC7トピックの海外からの新規提案などを得る機会を実現した.このような対応により,日本にとってのメリット創出と国際貢献を実現していくことは今後も重要である.
  • 日本がConvenorを務めているWG20で進めている技術者認定規格は,情報処理学会における認定情報技術者制度も準拠して,当該規格の国際展開に寄与している.

5. その他

今年度も各会議がCOVID-19のためOnlineで実施されたが,2022年にJTC 1総会が日本で開催された.2023年度のSC7 Plenary会議も4年ぶりに日本(岡山)にてF2F開催されることを計画しており.効率的な会議運営と,これによる日本のポジション強化を目指し,引き続き準備を進めていく.