SC 37 専門委員会 (バイオメトリクス)

第1 種専門委員会

SC 37 専門委員会(バイオメトリクス/Biometrics)

<2022年度委員会活動報告>

委員長 坂本 静生(日本電気株式会社)

1. スコープ

アプリケーションやシステム間の相互運用性とデータ交換を支援するための,人間に関する汎用的なバイオメトリクス技術の標準開発.
汎用バイオメトリック規格には,バイオメトリック用語(WG1担当),共通ファイルフレームワーク,バイオメトリック・アプリケーションプログラミングインターフェース(以上WG2担当),バイオメトリックデータ交換形式(WG3担当),関連するバイオメトリックプロファイル(WG4担当),バイオメトリクス技術への評価基準の適用,性能試験と報告のための方法論(以上WG5担当),管轄をまたがる社会的側面(WG6担当)を含む.
ISO/IEC JTC 1/SC 17におけるカードおよび個人認証へのバイオメトリクス技術の適用に関する作業は除外する.また,ISO/IEC JTC 1/SC 27におけるバイオメトリックデータ保護技術,バイオメトリックセキュリティ試験,評価,評価方法に関する作業は除外する.

2. 参加国

参加国は,Pメンバ31ヵ国・Oメンバ22ヵ国と,昨年度に比較しそれぞれ2か国ずつ増加した.幹事国は米国で議長はPatrick Grother氏(米国NIST)である.
日本からは,エディタ11件・コエディタ20件,TC68/SC2及び同SC8リエゾンを引き受けている.

3.トピックス

a) バイオメトリックセンサへ偽の物体等を提示して誤認証させる攻撃に対する耐性評価方法であるISO/IEC 30107シリーズを適合性評価機関の意見を取り入れてパート3は改定完了,パート4はFIDO Alliance等の意見を取り入れながら改定中である.また普及のため,パート1は無料配布することを決定した.

b) AIにおけるバイアスのひとつとして取り上げられることがある,性別や人種等の人口統計群に依存するバイオメトリック精度の系統的誤差評価であるISO/IEC 19795-10の審議が進行中である.人口統計群の定義(人種ではなく民族を用いるなど),及び属性によるエラー率の差異などの評価方法について慎重な検討が続いている.

c) 日本が提案した,従来よりも少ないサンプル数でより高い精度の算出を可能とするISO/IEC 5152は,審議を重ねて成熟度を順調に増しており、DISへ向けて開発を進めている.

d) 欧州AI法が規定するハイリスクアプリケーションのひとつ,バイオメトリック識別システムの整合規格であるISO/IEC 9868は開発がやや難航している.NWI成立時にマネジメントシステム規格が削除された他,当初マルチパートにする構想であったものの審議が進むにつれてボリュームがそこまで大きくならないことが判明し,シングルパートの規格として落ち着いた.2025年の成立を目指して審議を継続中である.


4. 日本対応/方針

ビジネス実務で必要となる規格を真摯に開発していくことを念頭におき,提示攻撃やバイアス等AI固有の課題に関連する、ISO/IEC 30107シリーズ,ISO/IEC 19795-10及びISO/IEC 9868などのの完成度を高めていく.
さらに,現代のバイオメトリクス技術がその精度を大きく高めたことの結果として,評価用サンプルの収集コストが課題となっている.日本は経済産業省委託事業により,極値統計モデルを活用する新しい精度評価規格であるISO/IEC 5152の開発を進めていく.

5. その他

コロナ禍の下でリモート会議での審議が続いたこともあり,慎重な議論が必要な規格の開発が遅れている状況のため,他国と協力してリカバリに努める.また,バイオメトリクス技術が社会に定着しつつあるところ,社会実装に必要な規格のタイムリーな開発を継続していけるよう,関連業界及びアカデミアとの協調を推進し,新しい世代を委員として迎えていく.