クラウド用語JIS原案作成委員会

第3 種専門委員会

クラウド用語JIS原案作成委員会

<2021年度委員会活動報告>

 委員長 鈴木 俊宏(日本オラクル株式会社)

1. 経緯

・ 委員会設立の目的
クラウドコンピューティング分野で使用される語彙の用語及び定義は,ISO/IEC 17788:2014 (Information technology-Cloud computing-Overview and vocabulary)を制定以降,技術進化及び市場の広がりとともに様々な国際規格が制定されている。しかし,利用者が当該分野の語彙を参照する場合,多くの規格を購入する必要があるなど不便を強いている。国際規格開発元のISO/IEC JTC 1/SC 38(Cloud computing and distributed platforms)では,利用者の利便性を高めるべくそれら分散した語彙を一つにまとめることを決議し,ISO/IEC 22123-1:2021(Information technology-Cloud computing-Part 1: Vocabulary)(以下,対応国際規格という。)を制定した。

・ JIS原案の作成/改正に至る経緯及び規格内容を記載

今回,認定産業標準作成機関である一般財団法人日本規格協会は,情報分野産業標準作成委員会の下に,JIS素案作成委員会(一般社団法人情報処理学会 情報規格調査会 情報技術-クラウドコンピューティング-第1部:用語JIS原案作成委員会)を設置し,所定の手続きを経てJIS案を作成した。
なお,この素案作成委員会は,クラウドコンピューティング技術及び市場動向の知見をもつ有識者としてこの規格の対応国際規格の開発にも従事した委員を中心に組織した。
この規格の対応国際規格は次のの構成からなる国際規格群の一つである。
• ISO/IEC 22123-1:2021, Information technology — Cloud computing — Part 1: Vocabulary
• ISO/IEC DIS 22123-2, Information technology — Cloud computing — Part 2: Concepts
• ISO/IEC NP 22123-3, Information technology — Cloud computing — Part 3: Reference Architecture
今後,国内外における情報通信技術の共通用語としてこの規格が大いに必要とされることが期待される。さらに,クラウドコンピューティングがけん(牽)引する日本経済の成長戦略の一助として,この規格を参照することによって,今後の国際規格,業界標準,企業活動,さらには政府調達はもとより,クラウドコンピューティングを前提とした経済社会システム全般への影響など,混乱のない協調性をもった情報化社会の実現が期待可能である。
ちなみに,ISO/IEC 17788:2014を基にした,JIS X 9401:2016(情報技術-クラウドコンピューティング-概要及び用語)が存在するがそれを廃止し,新たにこの規格を制定するに至った。

2. 作業内容
2.1作業の進め方

委員ごとに分担を決め,既存規格(JIS X 9401:2016,JIS X 9501-1:2019など)との比較おこないながら下訳を作成したうえで,別の委員によるレビューを実施した。その後,全体レビューとして,分担箇所どうしの整合性を見直した。作業中の審議事項については,委員長及が解説にまとめた。

2.2 作業中問題となった点

今回のこの規格の制定審議で問題となった主な事項及び審議結果は,次のとおりである。

a) 翻訳で採用した用語について,国内で一般に利用されている用語を安易に採用していない。理由は本規格が対応国際規格の一致(Identical)規格であること,国内で一般に流通している用語では片落ちになることなどを勘案し,例えば cloud service provider を クラウドサービス事業者 とせずに クラウドサービスプロバイダ と片仮名で直訳するなど,固有名詞については極力意訳を避け直訳に徹した。また,今後出版されるであろうクラウドコンピューティング関連規格から参照されることを想定し,重要と思われる用語は原語を付記する[例えば,クラウドサービスカスタマ(cloud service customer)]など,誤解を避けるよう計らった。

b) 欧米では既に一般に認識されている用語でも日本ではいまだに十分に認識されていない用語があることから,そのような用語については本規格で追記をした。

3. その他

上述したが,クラウドコンピューティングの領域はいまだに技術的に進化を遂げている。また各国の法規制の影響を受け運用も複雑さを増している。このような状況のなか,今回制定した対応規格も既に改定作業に入っている。ついては,国際規格の改訂版が出版され次第,再度委員会を結成し当該対応規格の改定を実施する必要がある。また,今回の作業で当該対応規格だけに追加した文言(読者にとって理解が深まるような説明)もあるため,国際規格にフィードバックしていきたい。