プログラム言語Fortran—第1部:基底言語 JIS改正原案作成委員会

第3 種専門委員会

プログラム言語Fortran—第1部:基底言語 JIS改正原案作成委員会

<2021年度委員会活動報告>

 委員長 岩下 英俊(SC22/Fortran WG小委員会主査)

1. 経緯

Fortran JIS改正原案作成委員会(以下,委員会)は,科学技術計算向けのプログラム言語FortranのJISを,現行のX3001-1:2009から13年ぶりに改正するJIS原案を作成した。対応国際規格はISO/IEC 1539-1:2018であり,Fortran 2018と呼ばれている。この規格は対応国際規格(646ページ)の完全な翻訳を含み,委員会が審議によって決定した用語訳を使用している。
委員会の活動期間は8ヶ月(準備期間を含めて10ヶ月)と決まっていたので,今回の作業量と過去の実績から考えると,多くの作業を委員会の発足の前に済ませておく必要があった。一方で,委員会の活動を2021年度にしなければならない事情があった。2022年度にはキーマンの2名が不参加となる可能性があり,また,次の国際規格が2023年に発行されると分かったためである。そのため,活動期間を2021年1月から8月とするプランを選択し2019年11月にJSAに応募した。申請時点では委員会の開始までに1年あったので,下訳(ラフな翻訳)の大部分は終わると見込んでいた(図a)。しかし実際には,進捗は芳しくなく,下訳作業が委員会期間中の他の工程を圧迫することとなった。結果として,7ヶ月の延長を願い出ることとなった。再スケジュール後は問題なく進んで予定通り納品を果たすことができた(図b)



2. 作業内容
2.1作業の進め方

(1)下訳:章ごとに担当者を立てて日本語訳を作成した。レビューの作業を容易にするため,現行JISから変更のない部分,削除部分,追加部分を区別するための記号(編集記号)を入れるルールとした。新しい用語の訳については,委員会が立ち上がるまでは決まらないので,仮の訳で進めておいて,委員会で決議されてから必要なら置き換えるという手間があった。原稿はLaTeXで記述し,表,注記,改行幅などのレイアウト,編集記号範囲の出力制御,ありがちな間違いの自動抽出などには,独自のLaTeXマクロや自作のツールを用いた。資産管理にはGitHubを使い,gitの苦手な委員のために資産管理と連動してLaTeX翻訳が実施されるCI/CD環境を作成した。

(2)レビュー/反映: 下訳が完成した章から直ちにレビューを行ない,結果を担当者が原稿に反映した。これを別のレビュアで2回繰り返すというルールとした。担当者とレビュアの意見が一致しない場合には,GitHub Issuesと月1回の会議で議論し,気づきを横展開した。

(3) 用語訳の審議: (1),(2)と併行して,検出した新しい用語や構文要素,頻発するフレーズなどについて,GitHub Issuesで議論して数個の案に絞った後,Zoom会議で審議した。当初は議論によって意見の一致を図ろうとしたが,時間がかかり過ぎるので,意見が出尽くした後に月1回の会議で多数決する方法に変えた。この方法により約150件(約300語)の新しい訳または訳語の変更を決議することができた。対訳表は頻繁に更新してCSV形式にまとめ,(1)の作業にフィードバックした。

(4) 体裁と様式の調整: (1),(2)がほぼ終わった頃から,全ての章(箇条),附録(附属書),まえがき,目次,索引などを結合して,最終的な体裁とレイアウトの調整を行った。委員会の会議に参加しているJSAの担当と協議した上で,索引の作成と解説の執筆は,納品後の作業に持ち越した。

2.2 作業中問題となった点

 委員会としての公式な活動期間を当初の契約通りの8ヶ月にまで短縮することはできなかった。作業の効率化は徹底したつもりだが,作業の絶対量が多く,これ以上の大幅な期間短縮の手段は考えにくい。前回は3年4ヶ月かかった活動期間を1年3ヶ月にまで短縮できた理由は,①公式な活動期間中は委員のモチベーションが高く保たれていて,毎月のオンライン会議とその間の各委員の作業分担がうまく回ったことと,②コロナ禍という後押しもあって,作業環境,資産管理,進捗管理などのデジタル化を一気に進めることができたことであると考えている。

3. その他(今後のため)

 翻訳を含むJIS化は,今後は難しいかもしれないと考えている。人的な問題も大きいが,活動方法が縛られることも足枷になる。委員会の活動期間を長くできないのであれば,委員会発足前の作業を後押しするための何らかの手段を考える必要がある。