プログラム言語COBOL JIS原案作成委員会

第3 種専門委員会

プログラム言語COBOL JIS原案作成委員会

<2021年度委員会活動報告>

 委員長 高木 渉(ISO/IEC JTC 1/SC 22国内委員会幹事)

1. 経緯

プログラム言語COBOLの国内規格であるJIS X 3002:2011(対応国際規格: ISO/IEC 1989:2002)の発行後,2014年に対応国際規格が改正され,大小様々の機能が導入された。これに整合させるようJIS原案を作成した。主な新機能は次のとおりである。
  • 動的に伸縮する変数や配列
  • ISO/IEC/IEEE 60559が規定する十進浮動小数点数の扱いや丸めの指定
  • 日付・時刻を扱う機能

国内では,膨大なソフトウェア資産がCOBOLで書かれていて,現在も増加を続けている。国際規格に導入された新機能を選択的に実装するコンパイラが出現しつつある一方で,国内の一般プログラマーが仕様を俯瞰して理解するには,英文の国際規格だけが参考文書という状態であった。

原規格が950ページと大部であることから,原案作成を1年未満の期間で完了させることには不安があった。事前にSC 22/COBOL WGのメンバで,国際規格の2002年版と2014年版との差分を機械的にとり,差分が複数行の塊になっている箇所について,抽出と訳出を全体の1/3程度の範囲で試みた。これによって,作業手順を確立し,作業量の見通しを得るとともに,訳出が1/3ほど終わった状態でJIS原案作成の作業期間に入った。

作業期間は,区分Bの2021年7月1日~2022年2月28日で開始した。しかし,期間中に作業を完了させることができず,延長を申請して,2022年9月30日に納入した。

2. 作業内容
2.1作業の進め方

事前の試行で確立した手順を拡張して,次のように作業を進めた。

(1) 新旧の原規格同士の機械的な差分をとる
(2) 差分が複数行の塊になっている箇所を抽出する
(3) 抽出した差分箇所を訳出する
(4) 訳出した部分を,現行JIS(JIS X3002:2011)の原稿に埋め込む
(5) (4) の過程で,細かな差分箇所も訳出して,現行JISの原稿に反映する
(6) (2)~(5)の過程で,担当者ごとに訳出した用語を一覧表にして,訳語を合わせる
(7) (2)~(5)の過程で,適宜JIS化経験者にレビューしていただいて,細かな言い回しなどを改善する
(8) 日本規格協会の様式調整を受け,そのコメントに対応する

2.2 作業中問題となった点

技術的に問題となった点はなかった。しかし,作業量の見通しがあまく,6か月の延長を申請する事態にしてしまった。現行JISを元原稿として,国際規格の新旧差分箇所に手を加える作業スタイルとる場合,今回,見通しが不十分となった次のような点で,考慮と,入念な事前準備が必要と考える。

(1) 訳出に時間のかかる新しい概念が集中する部分で試行する
新しい概念や仕様に対しては,その理解を始め,関連JISの訳語の調査などの周辺調査にも工数がかかる。事前の試行で,こうした訳出工数の偏りについても考慮しないと,見通しを誤る。

(2) 差分箇所の訳出のあと,現行JISの原稿に挟み込む作業まで試行する
実は,2.1の(4)と(5)の作業は,現行JISを元原稿として,これに手を加える作業である。手元に編集可能な現行JISのファイルないと試行できないので,現在の制度では手がでない。しかし,作業期間に入る前に,ぜひとも試行しておくべき作業だったと考えている。

(3) 差分箇所の訳出では,既存部分の訳との整合性をとるための工数も考慮する
事前の試行では,一定量の塊となった差分を訳出した。実は,これに加えて現行JISのその他の部分と訳語や言い回しを合わせる必要があり,国際規格の英文と原稿JISの日本語文の両方で,全文検索を繰り返すことになった。既存部分と訳の整合性をとる工数も,考慮が必要である。

(4) 訳語の一覧を作成する作業は,事前に,担当者間で粒度や記録内容を合わせる
各担当者が訳出中に作成した訳語一覧を,全体で併合して訳語の統一作業をする場合,担当者間でさじ加減が異なると,同じカラム構成の表を使っていても併合しにくい。

(5) JIS Z8301改正による影響を考慮する
作業期間の開始時に影響があることは把握していたが,2021年7月から1か月間の日本規格協会による様式調整のコメントで,実体が顕在化した。
原規格が2014年に改正されたあと,ISO/IEC Directives, Part 2の改正があり,これに合わせて,JIS Z8301(規格票の様式及び作成方法)が2019年に改正されている。したがって,間接的に,原規格はJIS Z8301:2019に対応していない。この影響で,様式調整では,注記に要求事項,推奨事項,許容事項を記載してはいけないので,注記から出して規定に含めた,という主旨のコメントが大量についた。しかし,以前のDirectivesの要領で,直前の規則を言い直しているに過ぎない注記を,機械的に規定に移すのは適切でなく,個々に訳語を調整する作業となった。

このように,原規格の作成時に従ったDirectivesと,JIS原案作成時に従うJIS Z8301とで版が異なる場合,追加で膨大な作業を強いられる可能性がある。ただし,このような影響を,作業期間開始前に見通すことは難しいと考える。

3. その他

規格の大きさに関係なく,JIS原案作成に同じ作業期間が設定されているのは,とても合理的とは思えず,何らかの改善を望む。規格の大きさが1000ページクラス以上になると,原案作成を1年未満の作業期間だけで完了させることは,ほぼ不可能と考える。今回,対処法として,事前に下準備をしたけれども,原案作成委員会の発足前では,改正対象の現行JISも,新しい対応国際規格も,JIS原案作成の名目で無償提供されるはずもなく,まして,現行JISの編集可能ファイルはなどは入手できないという環境での準備作業であった。