システム及びソフトウェア製品の品質要求及び評価(SQuaRE)に関するJIS原案作成委員会

第3 種専門委員会

システム及びソフトウェア製品の品質要求及び評価(SQuaRE)に関する JIS 原案作成委員会 完了報告

委員長 東 基衞(早稲田大学)

1. 経緯

1. 対象規格

JIS X 25020 システム及びソフトウェア製品の品質要求及び評価(SQuaRE)-品質測定の枠組み
JIS X 25030 システム及びソフトウェア製品の品質要求及び評価(SQuaRE)-品質要求の枠組み
2020 年 6 月から JIS 改正原案作成委員会を設置し,原案作成に取り組んだ。

1.2 JIS X 25020 制定の経緯及び規格内容

JIS X 25020 は,SQuaRE シリーズの構成において品質測定部門に位置付けられる。2019 年に改訂された ISO/IEC 25020:2019 に対応し,JIS 制定を進めた。
品質測定に対応する ISO/IEC 25020 の初版は 2007年に発行されたが,当時の版は成熟度が不足していたため対応する JIS の制定は行われなかった。その後,品質測定部門の JIS X 25021,JIS X 25022,JIS X 25023,JIS X 25024 及び ISO/IEC TS 25025 が発行された。品質測定部門の規格の枠組みを規定するISO/IEC 25020 の改訂も必要とされ,2019 年に改訂版が発行されたことを受けて JIS X 25020 を制定する。
a) 制定済みの SQuaRE シリーズの JIS 規格との用語及び訳語の整合性の確保。特に,JIS X 25020は JIS X 25022,JIS X 25023 及び JIS X 25024との用語及び訳語の整合性の確保。
b) JIS X 25000 との用語及び訳語の整合性の確保。
c) 参照規格の改正に伴う用語及び定義の見直し。

1.3 JIS X 25030 改正の経緯及び規格内容

JIS X 25030 は,システム及びソフトウェア製品の品質要求事項及び評価に関する品質要求事項の詳細を提供する。 2019 年に改訂された ISO/IEC 25030:2019 に対応し,JIS 改正を進めた。
旧版の ISO/IEC 25030(JIS X 25030)は 2007 年に発行されていたが,世の中の要望・進歩に対応すべく対象範囲をシステムへ拡大し,品質モデル及び品質測定に関する規格(ISO/IEC 25022~25024)との整合性の確保を行うため,旧版を全面的に見直して変更し,ISO/IEC 25030:2019 として改訂された。
ISO/IEC 25030 が 2019 年に改訂されたことを受けて JIS X 25030 を改正する。
a) 制定済みの SQuaRE シリーズの JIS 規格との用語及び訳語の整合性の確保。特に,JIS X 25030は JIS X 25000 及び JIS X 25010 との用語及び訳語の整合性の確保。
b) ソフトウェアライフサイクル規格の JIS X 0160とシステムライフサイクル規格の JIS X 0170 との用語及び訳語の整合性の確保。
c) 参照規格の改正に伴う用語及び定義の見直し。

2. 作業内容

2.1 作業の進め方
 

JIS 原案作成を効率的に進めるため,機械翻訳の下訳の提供を受けて利用した。最初に ISO/IEC 25030 及び ISO/IEC 25020 の用語定義を翻訳してレビューし主要用語を確認した。その後,ISO/IEC 25030 を翻訳してレビューを行い,次いで ISO/IEC 25020 を翻訳しレビューを行った。
翻訳内容の一貫性を保つため,全文通しての翻訳レビューと修正を数回実施し,チェック結果は委員会で内容を審議・検討した後,委員全員による全体を通したレビューを行い,記述内容に齟齬がないかを確認した。原案作成においては,今までの SQuaRE シリーズ制定又は改正時から蓄積している用語辞書を参照し,従来の JIS との用語に齟齬がないように注意した。
特に,JIS X 25020 及び JIS X 25030 の用語定義では,発行されている SQuaRE シリーズの複数の JIS規格,JIS X 0160,JIS X 0170 などの定義の引用箇所が多いため,定義の表現を出典に沿うようにした。また,JIS X 0160,JIS X 0170 及び JIS X 0166 と対比して示している箇所は引用を正確に行うようにした。
JIS X 25030 及び JIS X 25020 の間で関係のある個所や類似内容の箇所は齟齬がないように翻訳した。JIS X 25030 と関係する JIS X 0166 の JIS 原案作成はこの規格の JIS 原案作成と同時期に行われていた為,2021 年 2 月時点での JIS X 0166 の JIS 原案を参照して大きな齟齬が無いことを確認した。

2.2 作業中問題となった点

JIS X 25020 原案作成では,次の項目に注意した.
a) 附属書 B.2 で、測定量の信頼性を確立する方法の間隔尺度又は絶対尺度を利用する統計で,原文の“Cohen’s alpha”は正しくは”Cronbach’s alpha”であるため,“クロンバック(Cronbach)のα係数”と訳した。
b) “ quality measure on external property ” , quality measure on internal property”の訳語は分かりやすくすることを優先し,“外部特徴に対応する品質測定量,外部特徴 QM”, “内部特徴に対応する品質測定量,内部特徴 QM”と訳した。
c) 測定プロセスに関する引用規格であるISO/IEC/IEEE 15939:2017 に対応する JIS は未発行のため,旧版に対する JIS X 0141:2009システム及びソフトウェア技術-測定プロセスも参考にして翻訳を行った。
d) Quality in Use を利用時の品質と呼んでいたが,今回は利用時品質で統一した。
e) 附属書 B で“κ統計量”や“Cronbach のα係数”などの統計用語,附属書 D で “上界”や“下界”などの数学用語を使用している。統計及び数の専門分野からみて適切な翻訳であることを確認した。
JIS X 25030 原案作成では,次の項目に注意した。
a) “user”は,単独の場合は“利用者”とし,他の用語と組み合わせて使用する場合には,カタカナ語と組み合わせる場合は,カタカナ表記とした(例えば,“ユーザインタフェース”)。それ以外は漢語表記とした(例えば,“間接利用者”)。
b) “business”は,原則として“ビジネス”と訳す。
c) “specification”は“仕様”とする。“requirements specification”も“要求仕様”とし“要求仕様書”とはしない。
d) 専門用語で日本語に適切な用語がない場合はカタカナ表記とする。例えば,“domain”は“ドメイン”とする。
e) JIS X 0166 で使われている略語 SRS,StRS 及び SyRS の日本語訳は,SQuaRE シリーズではrequirement を“要求事項”と用語定義しているため,JIS X 0166 とはやや異なるが SQuaRE シリーズの用語を用いた訳とした。

3. その他

SQuaRE シリーズは,システム及びソフトウェア製品の品質を規定した唯一無二の規格で,情報システムの開発,開発委託及び利用,ソフトウェア開発などの業界で広く使用されている.
SQuaRE シリーズは,ソフトウェア製品の品質に加えて,対象をシステムの品質,データの品質,IT サービスの品質まで拡大し, “ソフトウェア,システムの品質及び利用時品質に関して,品質特性及び品質副特性を定義する品質モデルを規定”するものとなっている。
SQuaRE シリーズの異なる種類の品質モデル(利用時品質モデル,製品品質モデル,データ品質モデル及びIT サービス品質モデル)に対する各種の品質測定量(QM)間の関係を JIS X 25020 で提供している。
今回の JIS 制定及び改正では,SQuaRE シリーズ内及び関連規格との整合性を確保しており,システム及びソフトウェア製品の品質向上に貢献するものと考える。