SC 39 専門委員会 (ITとデータセンタによる持続可能性)

第1 種専門委員会

SC 39 専⾨委員会(IT とデータセンタによる持続可能性/Sustainability, IT & Data Centres)

<2021年度委員会活動報告>

委員長 椎野 孝雄((株)キューブシステム)

1. スコープ

 SC 39専⾨委員会は,いわゆる「グリーンIT」をスコープとしたSCとして,2012年6⽉に発⾜した.ITシステム自身の省エネ化とITシステムを使ったサービスによる社会の省エネ貢献に関する標準化に取り組んで来た.2019年からは,タイトルを「Sustainability, IT & Data Centres」に変更しデータセンタについては資源環境問題以外の標準化についても扱うようになった.具体的には3つのWGで活動を⾏って来ており,WG 1はデータセンタの資源効率(省エネ)を扱っている.WG 2はデータセンタから端末までを含む情報システム全体の資源効率を扱っていたが,2018年で活動を終了した.また,2017年からはデータセンタ設備の標準化,規範を広くカバーする目的で,WG 3が新設された.

2. 参加国

 参加国は,Pメンバ19カ国,Oメンバ4カ国であり,アクティブな参加国は,⽇本,⽶国,英国,ドイツ,オランダ,フランス,フィンランド,オーストリアである.SC 39の議長は⽶国,セクレタリはANSI,WG 1のコンビナは⽶国,WG 3のコンビナはドイツである.日本は,ISプロジェクト4本,TRプロジェクト2本でエディタを引き受け,積極的に執筆活動を行った.

3.トピックス

3.1 データセンタの省エネ(省資源)KPI

 本プロジェクトは,データセンタの効率指標(KPI: Key Performance Indicator)の定義のIS化を扱っている.

a) 以下の5つのプロジェクトについては,2017年10月までにすべて発行された.

  • ISO/IEC 30134-1 Overview and general requirements(英国提案)
  •  ISO/IEC 30134-2 PUE (Power Usage Effectiveness)(米国提案,日本もエディタ)
  •  ISO/IEC 30134-3 REF (Renewable Energy Factor)(日本提案)
  •  ISO/IEC 30134-4 ITEEsv (IT equipment Energy Efficiency for servers)(日本提案)
  •  ISO/IEC 30134-5 ITEUsv (IT equipment Utilization for servers)(日本提案)
 これにより、日本が当初から提案してきたレーダーチャートを用いてデータセンタ省エネの全ての側面を4つの指標によって評価する手法であるDPPE (Datacentre Performance Per Energy)を構成する,PUE, REF, ITEE, ITEUがすべて国際標準となった. これで, DPPE手法によるデータセンタの省エネ目標管理ができることになった.

b)  日本からは,続くIS案件として,ハードウェアからソフトウェア(ミドルウェア)までを含むITプラットフォームの省エネ効率指標の必要性を唱え, ISO/IEC 23544 APEE (Application Platform Energy Effectiveness)というKPIを起案した.2021年5月にFDIS投票が可決され、若干のeditorial修正を行い、2021年6月に発行された.

c)  また,米国起案のサーバー単体の省エネ性能を測るKPI(ISO/IEC 21836 SEEM: Server Energy Effectiveness Metric)は2020年5月にFDISが可決され9月に発行された.このSEEMは日本の省エネ法において、サーバーの省エネ基準の設定に使用されることが決まっている。

d) さらなるKPIとして、フィンランド起案の排熱利用に関するKPI(ISO/IEC 30134-6 ERF: Energy Reuse Factor)があり、2021年8月に発行された.
また2019年5月に,ドイツからエネルギーではなく天然資源を扱う新たなKPIとして,炭素の利用効率指標(ISO/IEC 30134-8 CUE: Carbon Usage Effectiveness),水の利用効率指標(ISO/IEC 30134-9 WUE: Water Usage Effectiveness)がスタートし2022年3月に発行された.

3.2 省エネデータセンタに関するドキュメント

a) データセンタの地震対応ガイドライン(ISO/IEC TR22237-30)
英国からの提案で,日本の地震対応ガイドラインを流用したTS22237-30(地震対応ガイドライン)を共同で作成していた.写真の著作権問題で発行が止められていたが,著作権取得が難しい写真を3Dで作成された図(JPEG)に差し替えてISO事務局に提出し2022年3月に発行された.

b) データセンタのKPIの統合アプローチ(Holistic Approach)(ISO/IEC TR20913)
複数のKPIを組み合わせて,データセンタの総合的な省資源性能を評価する⼿法の紹介である.日本からDPPEというレーダーチャートを用いた手法を紹介している.韓国と⽇本の共同執筆で作成され,2016年12月にTRとして発行された.

c) データセンタの設備構築に関する国際標準
 欧州のETSIが作成し,欧州標準(EN50600)として発行されたデータセンタのファシリティガイドを国際標準とすべく,英独共同提案がされ,まずはTSとして2017年に発行された.空調、電源、保安設備,ケーブリングなど7分冊(TS22237-1〜-7)からなるものである.これは,欧州の環境に基づいたものであるため, 日本を含むアジア,米国などの状況も踏まえた全世界ベースのものとしISにするために,WG 3が設立された.
7分冊のうち初めにISO/IEC 22237-1(総論) ,ISO/IEC 22237-3(電源) ,ISO/IEC 22237-4(空調) の3編が、2021年10月に発行された.
残りの4分冊のうち, ISO/IEC 22237-2(Building Construction), ISO/IEC 22237-6(Security systems)について,2022年6月現在でCDレベルまで進んでいる.これらの文書の中で,Protection Classというものが定義されているが,日本を含めた各国の建築基準で規定されているもの(防火など)を,この国際標準で別途規定する必要があるのか議論された.結論として,この文書で記述はするが,基本的には各国の基準がある場合はこの国際標準より各国の基準が優先されることになった.

4. 日本対応/方針

4.1 データセンタの省エネ KPI

 米国が30134-2 PUEの改定を提案している. PUE(Power Usage Effectiveness)は,日本の省エネ法でも使われることになったデータセンタのエネルギー効率指標なので,SC39での改訂が日本の制度にも影響する.現在の米国の提案ではスコープの変更はないようだが,議論の進み方によっては,範囲が広がることもありがちなので,注意が必要である.

4.2 省エネデータセンタに関するドキュメント

 22237シリーズは,データセンタの建物設備の標準であり,欧州の標準を国際標準化するものである.7つのパートのうち、3つがIS発行済み,2つが進行中だが,今後パート5(通信配線),パート7(保守運用)がスタートする予定である.欧州の標準をそのまま適用しようとするので,日本と異なる部分については,修正を提案しなくてはならない.できるだけ,各国の基準がある場合は,そちらを優先することができる記述にしていく.

5. その他

 SC 39の当初のスコープは,地球環境の持続可能性とITであったが, 参加者の関心はデータセンタにシフトしており,データセンタ関連であれば地球環境の持続可能性に関係のないもの,例えば災害耐性などに広がっている.そこで,SC 39のタイトルとスコープの見直しが行われ, データセンタという言葉を明示的に入れ,地球環境以外のテーマもとりあげられることになった.
新しいタイトルは,本文のタイトルにもなっている,ISO/IEC JTC 1/SC 39: Sustainability, IT & Data Centres,新しいスコープは,Standardization of assessment methods, design practices, operation and management aspects to support resource efficiency, resilience and environmental and economic sustainability for and by information technology, data centres and other facilities and infrastructures necessary for service provisioning. である.このように,SC 39のスコープは拡大されつつあるので,日本としては,このデータセンタ全般のトピックもカバーしつつ,本来の趣旨である地球環境の持続可能性の側面も継続して重要視し,対応していくつもりである.