SC 29専門委員会 (音声,画像,マルチメディア,ハイパーメディア情報符号化)

第1 種専門委員会

SC 29専門委員会 (音声,画像,マルチメディア,ハイパーメディア情報符号化/Coding of audio, picture, multimedia and hypermedia information)

<2025年度委員会活動報告>

委員長 鈴木 輝彦(ソニー㈱)

1.スコープ(担当範囲・目的)

SC 29は音声、画像、マルチメディア符号化技術の標準化を目的として 1991 年に設立された.スコープは以下の通りである:

デジタル静止画像・音声・ビデオの効率的符号化
その他マルチメディア・センサ・ゲノム情報等の効率的符号化
同期・蓄積・伝送・セキュリティ等のサポート

SC 29 専門委員会では,SC 29 の国際会議対応,および SC 29 で策定した規格の普及促進を目的として活動している.

2.国内活動内容

2.1. 国内での普及・啓発活動
国際会議での成果を国内に還元する活動も行われた.
短期集中セミナーの開催: 「JPEG/MPEG最前線」と題したセミナーをオンラインで開催し、国際標準化で活躍するエキスパートが最新の標準化動向を解説するなど、国内産業界への情報共有と標準化活動への参加促進を図った.

 

3.国際会議へのアウトプット(成果)

3.1. 概要

日本は、1991年の設立以来幹事国を日本が継続して担当している.主な参加国は日本,米国,英国,ドイツ,フランス,オランダ,スイス,イタリア,オーストラリア,ベルギー,ポルトガル,中国,韓国などである.P-member 31ヶ国,O-member 17ヶ国.

2025年度(2025年4月〜2026年3月)における日本のJTC 1/SC 29(音声、映像、マルチメディア、ハイパーメディア情報の符号化)関連の国際活動では、SC 運営・管理面でのリーダーシップの発揮および、AI活用や空間映像技術などの先端分野における顕著な技術貢献が成果である.

以下に、主なアウトプットを整理してまとめる.


3.2. 国際標準化委員会の運営・管理における貢献

日本は、SC 29の幹事国として、SC全体のマネジメントにおいて重要な役割を果たした.
  • 委員長の鈴木輝彦氏(ソニー)が2025年1月よりAG 1(議長サポートチームおよびマネジメント)のコンビーナに就任し、幹事国業務の改善やOSD(オンライン標準開発)への対応、将来の課題検討をリードした.
  • 後継者計画(Succession Plan)の推進: 国際的な組織の透明性と持続可能性を高めるため、WG 5 (JVET) 等のコンビーナ後継者選定プロセスの明確化や募集(Call for Candidate)を主導しました.
  • 日本会合の準備: 2024年に開催された札幌会合の余剰金を、将来の日本招致のための積立資産として管理することを決定し、2028年以降の再招致を目標に掲げた.


3.2. MPEG関連(映像・システム技術)の成果

MPEG分野では、AIを活用した符号化や没入型メディア(メタバース関連)で多くのアウトプットがありました.
  • Video Coding for Machines (VCM): 日本(JNB)は、ISO/IEC 23888-2のCD(委員会草案)投票に対し、24件のコメント(うち19件が採択または実質採択)を提出し、規格の完成度向上に大きく貢献した.
  • 空間映像技術(Lenslet Video Coding): 高密度光線空間の符号化において、名古屋大学および愛知工科大学がベルギーの大学と共同提案(m73719)を行い、審議の結果、これらが統合されたテストモデル(LVTM)や共通実験条件(CTC)の策定に繋がった.
  • Gaussian Splatting (GS) 圧縮: 3D Gaussian Splattingの早期規格化に向けた議論を主導し、既存の点群圧縮規格(G-PCC, V-PCC)を拡張するAmendment(追補)の発行リクエストなどに貢献した.
  • 次世代映像符号化(Beyond VVC): VVCを超える性能を目指す「Joint Call for Evidence」において、日本を含む専門家による主観評価実験が実施され、VTM(VVCテストモデル)を有意に上回る性能改善を確認し、将来の提案募集(CfP)に向けた準備を推進した.
  • Open Font Format: 第5版のFDIS投票に向け、日本から「gvar/GVAR」の修正に関する技術コメントを提出し、規格の正確性の確保に寄与した.


3.3. JPEG関連(静止画技術)の成果

JPEG分野では、AIベースの符号化や新センサー対応において主導的な役割を果たした.
  • JPEG AI (ISO/IEC 6048): DNNを活用した静止画符号化方式において、日本は各会合に継続的にエキスパートを派遣し、DISの発行や出版フェーズへの移行を支援した.
  • JPEG XE (Event-driven Vision Sensor): イベント駆動型ビジョンセンサ向けの符号化方式において、NWIP(新作業項目提案)の発行や提案技術の審議をリードし、2025年10月のDIS発行に貢献した.
  • JPEG Trust: メディアの信頼性を確保するためのフレームワーク構築において、日本の専門家がホワイトペーパーの作成やユースケースの定義に深く関与した.

以上の通り、2025年度の日本は、国際標準化の「ルール作り(運営)」と「技術提案」の両面で、世界のマルチメディア符号化技術を牽引する成果を残した.

4.課題

SC 29 専門委員会の皆様、および国際の活動における課題は、組織運営、標準化プロセス、および国内の普及活動の3つの側面から以下の通り、まとめる.


4.1. 組織運営と後継者計画(Succession Plan)

SC 29全体の持続可能性を確保するためのリーダーシップの継承が喫緊の課題となっている.
SC 29議長の後継者選定: 現議長が再任を希望していないため、幹事国である日本として後継者の選定が急務となっている.日本から次期議長を擁立する予定であるが、事前に各国との調整が必要.
各WG/AGコンビーナの任期満了: AG 1コンビーナおよびWG 5コンビーナを除き、多くの役員の任期が2026年末で満了するため、2026年7月の総会に向けて計画的な募集と審議が進められている.
ITU-Tとの協業管理: ITU-T SG21と共同運営しているJVET(WG 5)において、双方の組織手続きの違いによる誤解や混乱の回避が課題である.また、サブグループ設立プロセスの明確化などのToR(付託事項)変更についても、ISO側の運用(コンビーナ・サポートチーム)との整合性を含め継続的な議論が必要である.


4.2. 標準化プロセスとツールの改善

OSD への対応: 規格策定の効率化と透明性の向上が求められている.OSD(オンライン標準開発)への対応: OSDの導入に伴い、使い勝手に関するフィードバックの収集や、SC 29としての適切な対応方法の検討が求められる.

投票遅延(Ballot Delay)の解消: 幹事国および事務局として、投票の遅延が発生する要因を分析し、プロセスを改善することが求められている.

ISOエディタとのコミュニケーション: FDIS(最終国際規格案)提出後、出版までの進捗状況が不透明であるため、ISOエディタとの情報共有の改善がJTC 1に対して要請した


4.3 国内活動および普及・啓発

日本会合の再招致とノウハウ継承: 2028年以降の国際会議の日本招致を目標としており、札幌会合の余剰金の適切な管理や、運営ノウハウを途切れさせないための準備が必要.

セミナーの活性化: 短期集中セミナーへの学生の参加が減少しており、原因の調査と対策が必要.また、上司の紹介による参加が多いため、学会等を通じた告知・PRのさらなる強化が必要.また、国際会議や他の学会イベントとの重複を避けるため、スケジュールの早期調整が必要である.


4.4 その他、技術的な共通課題

AI活用と再現性の確保: AIベースの符号化方式において、適合性(Conformance)の考え方の整理や、実装による再現性の調査が進められている.
新規領域の探索に関して、WGsが未着手の共通課題の探索や、業界へのアウトリーチ(Industry outreach)を強化し、「SC 29の課題(Challenges for SC 29)」を継続的に更新していく必要がある.

5. 次年度の予定(見通し・計画)

SC 29 専門委員会および、国際の次年度(2026年度)およびそれ以降の見通しと計画について、組織運営、技術標準化、国内活動の観点からまとめる.


5.1 組織運営および役員の継承計画(Succession Plan)

SC 29全体および各ワーキンググループ(WG)の持続可能性を確保するための重要な節目を迎える.SC 29議長の交代: 現議長(Gary Sullivan氏)が再任を希望していないため、幹事国である日本は後継者として、日本から鈴木氏の擁立と各国との調整を急ぎ、2026年7月の総会に向けて準備を進める.

コンビーナの改選: 多くのWG/AGコンビーナの任期が2026年12月で満了するため、2026年初頭に候補者募集(Call for Candidate)が発行され、7月の総会で審議される予定.WG 5 (JVET) の新体制: コンビーナ後継者としてMathias Wien氏(ドイツ)が任命され、ITU-T SG 21との共同運営体制の維持・強化が図られる.


5.2 技術標準化のロードマップ

各分野で次世代技術の規格化が本格化する.SC 29 専門委員会としては、これらの新規活動に積極的に貢献していく.
 

静止画・センサー関連(WG 1/JPEG)

JPEG XE (Event-driven Vision Sensor):  イベント駆動型ビジョンセンサ向けの符号化方式について、2026年4月に最終国際規格案(FDIS)の発行を目指す.
JPEG AI: DNNを活用した静止画符号化方式(ISO/IEC 6048)の各パートが順次出版フェーズに移行する.

 

映像符号化・機械向け符号化(WG 4, WG 5/MPEG Video, JVET)

次世代映像符号化 (Beyond VVC): VVCを超える性能を目指すプロジェクトにおいて、2026年7月に提案募集(Final CfP)を発行し、2027年1月の会合で提案技術を審議するスケジュールで進める.規格化完了はその後3年以内を目指す.
Video Coding for Machines (VCM): AIによる認識を想定したビデオ符号化(ISO/IEC 23888-2)について、2026年7月のFDIS発行に向けて完成度を高めていく.
Feature Coding for Machines (FCM): 特徴量符号化について、2026年1月に委員会草案(CD)、7月に国際規格案(DIS)を発行し、2027年1月のFDIS発行を目指す.

 

空間映像・没入型メディア(WG 4, WG 7/MPEG Video, 3D Graphics)

Gaussian Splatting (GS) 圧縮: 3D Gaussian Splattingの早期規格化の要請に応えるため、既存の点群圧縮規格(V-PCC, G-PCC)を拡張するAmendment(追補)の策定を進め、2026年中または2027年前半の完了を目指す.
Lenslet Video Coding (LVC): 既存の映像符号化を活用した小型レンズアレイ映像の符号化について、2027年4月の標準化完了を目指す.

 

5.3 国内活動および日本招致計画

短期集中セミナー: 2026年度にも「JPEG/MPEG最前線」セミナーの開催を計画しており、参加者の増加に向けたPR強化や情報発信方法の検討を継続する.
国際会議の日本招致: 運営ノウハウの継承を目的に、2028年以降(1月または7月)のSC 29国際会議の日本招致を目標として活動を推進する.