SC 42 専門委員会 (人工知能)

第1 種専門委員

SC 42専門委員会(人工知能/Artificial Intelligence)

委員長 杉村領一(産総研)

1. スコープ

人工知能分野の標準化
・JTC1 の人工知能標準化プログラムの中心的かつ提唱者としての役割を果たす
・人工知能アプリケーションを開発している JTC1,IEC 及び ISO 委員会にガイダンスを提供する.

2. 参加国

P メンバ:オーストラリア,オーストリア,ベルギー,カナダ,中国,コンゴ,コートジボアール,キプロス,デンマーク,フィンランド,フランス,ドイツ,インド,アイルランド,イスラエル,イタリア,カザフスタン,ケニア,韓国,ルクセンブルグ,マルタ,オランダ,ノルウェイ,ロシア,サウジアラビア,シンガポール,スペイン,スウェーデン,スイス,UAE,英国,米国,日本(33か国)

O メンバ:アルゼンチン,ベニン,ブラジル,香港,ハンガリー,インドネシア,リトアニア,メキシコ,ニュージーランド,北マケドニア,フィリピン,ポーランド,ポルトガル,ルーマニア,南アフリカ,ウガンダ,ウクライナ(17か国)
 
幹事国:米国(ANSI),コミッティーマネージャ:Heather Benko, 議長:Wael Diab
日本のエディタ引き受け状況:5259-2(金京淑・産総研),TR5469(江川尚志・NEC 産総研),5338(鄭育昌・富士通),TR24030 (鄭育昌・富士通)
日本のコンビーナ引き受け状況:JWG 1 (原田要之助・情報セキュリティ大学院大学),WG 4 (丸山文宏・産総研)

3. トピックス

3.1.活動概要

 本報告作成時点(2021年8月)において,既出版標準8件,作業中標準23件である.既出版の内,5件は WG2のデータ関連,2件が WG3 の信頼性関連,1件が WG4 ユースケース関連である.執筆時点で,3件の DIS(WG1 関連2件,JWG1 関連1件)が投票中である.

3.2.トピックス

 開発案件の中でも,専門委員会各位の高い関心のある標準ならびに,日本の貢献の大きい標準に絞って紹介する.

① AI のユースケース ISO/IEC TR 24030 を 2021 年5月 11 日に発行.日本が大きく貢献
AI は新しい分野であり,研究開発による変化が著しく議論のベースとして具体的なユースケースは必須情報である.丸山文宏氏(産総研 元富士通研)がコンビーナを務める WG4 では,その最初の成果として,AI のユースケース TR をエディタ鄭育昌氏(富士通)により完成し発行した.本 TR には各国から寄せられた132件を掲載されており,SC42 だけでなく,広く AI の関連技術の議論ベースを与えるものとして今後も改版含めて大きに期待されている.なお,総ページ数は500ページを超える大作となっており,本文およびユースケース本体を記載した電子付属書の二部構成となっている.

② AI システムのライフサイクル ISO/IEC AWI 5338 開発進展
 AI システムでは,例えば機械学習の部分は設計時に与えられた仕様ではなく教師データを用いた帰納的な学習によって規定される.さらに,時間の経過とともにデータ全体が変化していく場合,再学習によって学習済みモデルを更新する必要も出て来る.AI システムのこのような特性を踏まえたライフサイクルの標準を実現するため,ユースケースに基づくライフサイクルの検討結果を踏まえて,2020年 4 月の SC 42 オンライン総会に WG 4 から提案して NP 投票に掛けることが承認され,同年,8 月に NP 5338 が承認され,開発が始まった.JTC 1/SC 7 によるライフサイクル・プロセスの標準ISO/IEC/IEEE 15288 および ISO/IEC/IEEE 12207 に基づいて AI 特有のプロセスを追加した標準を想定しており,2020 年 11 月に最初の原案(WD)がエディタ鄭育昌氏(富士通)によって作成され,各国のエキスパートによる開発作業が進んでいる.当該標準は,AI ビジネスを遂行する場合に,例えばAI システム出荷後に AI 特有のステージが必要になるなどを,国際標準として明示することで,一般のユーザへも AI 特有のステージについて信頼に足りる情報提供・説明を行う有効なツールとなることが期待されており,日本の関係者の関心も高い.

③ データ関連標準への取り組み
 AI の機械学習にはデータが必要であり,DFFT(Data Free Flow with Trust)は大きく AI の進展に貢献すると期待できるが,これらデータ関連の知見を幅広い関係者間で共有し知恵を集めるには,基礎となる技術標準は必須となる.
 
 このような背景下,JTC-1 では,SC42 の活動開始に先行して JTC1-WG9 にてビッグデータに関連する標準開発が進められた.ここで開発されたドキュメント,ISO/IEC 20546 Big Data Overview and vocabulary, ISO/IEC 5047 Big data reference architecture シリーズ Part 1: Framework and application process, TR Part 2: Use cases and derived requirements, Part 3: Reference architecture, TR Part 5: Standards roadmap は,SC42 - WG2 の活動の基礎となっている.なお,これらのドキュメントは,図の記載に UML(ISO19501 参照) を積極的に利用し,効率的・効果的な技術的議論を支えている.

 現在,データ関連標準策定は,榎本義彦氏をコンビーナとするデータ品質アドホックグループを主要な柱として,ISO/IEC 5259 シリーズ Part 1: Overview, terminology and examples, Part 2: Data quality measures(エディタは日本から金京淑氏(産総研)), Part 3: Data quality management requirements and guidelines, Part 4: Data quality process framework を開発中である.また、これらの拡張も検討されている.

④ 信頼性関連標準
 AI の信頼性(Trustworthiness)をどう実現するかは,グローバルな技術領域を超えた関心事である.SC42-WG3ではこのような状況にいち早く対応すべく,TR 24028 AI-Overview of trustworthiness in AI を発行した.この中で,Trustworthiness を形作るステークホルダーの期待として,reliability, availability, resilience, security, privacy, safety, accountability, transparency, integrity, authenticity, quality, usability などが挙げられている.現在,JTC1 WG13 にて Trustworthiness は分野横断的に議論が進められているが,AI に特有の信頼性に関連するドキュメント8件が WG3 にて開発中である.その中でも,ISO/IEC に跨って重要性が高い「機能安全と AI についての標準 TR 5469」は,IECSC65A との共同作業により開発が進められている.エディタは,日本の江川尚志氏(NEC,産総研)である.本分野は,今後も信頼性確保のためのテスト標準や,AI の制御などについて議論を深めており,更に多くの標準策定進められる予定である.信頼性は,企業活動においても基本的な価値となるため,継続的に日本メンバの関与を続けて行きたい.

⑤ JIS 化対象となり得る標準開発
 種々の標準策定が進む中,JIS 化への要望が上がっているのが,WG1 で策定中の 22989 AI concepts and terminology, 42001 AI management system, そして SC40 と SC42 の Joint Working Group (コンビーナは原田氏(情報セキュリティ大学院大学名誉教授))にて策定中の 38507 Governance implications of the use of AI by organizations である.22989 は広く AI 関連の技術を語る上での基礎となることが期待されるものであり, 42001 と 38507 は,AI ならびに AI を用いたシステムを用いるマネージャや経営者が AI 特有の管理や監督において何を意識し行動する必要があるかについて,ハイレベルの示唆を取りまとめたものとなっている.日本からは,AI には,リスクとしてネガティブなハザードだけでなく,ポジティブな機会(Opportunity) について取り上げることが必要となることを主張し,現在,各国がその内容を理解するに至っている.

⑥ 米国・中国・欧州のバランス
 AI の研究開発分野で研究開発論文や知財の数は米中がトップを争っている.SC42 においては,米国が幹事国のこともあり,各 WG へ広く人を配置しているが,中国は WG5 のコンビーナを引き受けていることもあり,ここを重点として活動が展開されている.提案内容からは,両国の標準化関連人材の厚さが垣間見られるが,バランスの取れた方向性を実現する上では,米・中に加えて EU 各国の動きを入れたバランスを取るように動けるように留意をしておくことも必要となっている.

4. 日本対応/方針

 AI の技術標準策定には,グローバルな研究開発動向ならびに技術についての理解が,重要な基礎となる.ただ,AI 技術がもたらす結果が,幅広い分野で,新たな価値と課題をもたらすことが広く認識・議論されて技術に関連するビジネス動向や,マネジメント,ガバナンスに与える影響についての理解・考察も重要となっている.更には,例えば欧州の AI 規制案に見るように,政策上も重要なトピックとなっており,幅広い文脈との関係も,各方面の有識者等との協力関係等を通じて理解を深め取り組む必要がある.具体的には,欧州 CEN-CENELEC や,米国 NIST,そして各国の標準化推進母体との継続的な情報交換は欠かせない.また,日本政府の発信する指針ももちろん,経団連の発信する文書なども,指針を議論する上で重要である.今後も,組織的な取り組みに留意しながら課題形成・解決へ取り組んで行きたい.なお,短期的には品質・ライフサイクル,ならびにマネジメント関連の標準策定に注力する必要が認識されており,各方面ご協力を得ながら,標準策定を推進する予定である.